12月も半ば、テスト期間を終了すれば学生に残されたイベントはあとは冬休みだけだ。約2週間弱の冬期休暇は学生たちの心を浮きだたせるのには十分なもので、それはアリババとて例外ではない。せっかくの長い自由時間をバイトに充てるのは勿論だが、長かったテスト期間を終えた今は羽を伸ばしたくて仕方ない。
外を見れば、最近の気温の低下に伴い朝から降り始めた雪が僅かに積もっており、それに歓喜した神楽がアラジンとモルジアナを雪遊びに誘っていた。ちらりと此方を見遣るアラジンたちにアリババは「行っておいで」と手を振った。彼らはアリババに構ってばかりで、年の近い者同士でなかなか遊ぼうとしない。だから、こういう時にでも気にしないで目一杯遊んでくれば良いのだ。(夜にアラジンたちがあまり友達と遊ばないと相談すると、何故か遠くを見る)
今日はテスト終了日とありアリババもバイトは入れてないため、望と夏目、Nを誘い放課後の街に遊びに出ることにした。
「ふふー」
「そんなに肉まん好きでしたっけ?」
寒いからと、寄ったコンビニでアリババは肉まんを、望はプリンを購入した。Nと夏目も一緒に付いてきたが、食が細いためか何も買わずにコンビニを出ている。
道中、ほくほくと湯気をたてる肉まんを手にふにゃりと頬を緩めているアリババに望は問いかけた。ちなみに彼女が購入したプリンは期間限定のものである。
「あ、いや、元から好きだけどっ!!」
「藤原くんと何かありました?」
望の質問に初めてアリババはたじろぎ、答えた言の葉には動揺が含まれていた。嘘をつくのが苦手なのだろうとは思っていたが、ここまで反応が顕著だと面白い。故か、夏目も夜の名前を出してきた。途端にアリババの顔には朱が走る。なんと正直なことだろうか。
「べ、別に何も?!半分こしただけだけど?!」
先日、喧嘩....とまではいかなかったが、夜と望の仲を勘違いし拗ねたアリババに夜が折れてひとつの肉まんを買って2人で分けたのだ。アラジンやモルジアナとそうすることは良くあるが、夜が相手ではまた違うというもので。アリババにとっては夜が初めての恋人ということもあり、何事にも胸が高鳴るし、記念にしたくなるのだ。とはいえ、(たとえ自分でバラしてしまったとしても)自分だけが、そのようなことを語るのでは詰まらないし、平等ではない。アリババは頬に熱を載せたまま、望に「そういう望は?!そのプリンどうするの?!」と問いかけた。やや、口調が荒くなってしまったが、この際は目を瞑って欲しい。
「え、あ、これ、は....」
自分に話が振られるとは思っていなかったのか、はたまた予想はしていたが口にするのは恥ずかしいのか、望は見る間にその白い肌に朱を登らせて口をはくはくとさせた。
プリンの入ったビニール袋をぎゅうと握り、その肩には自然と力が入っていた。
いつもは落ち着いた印象を抱かせる涼やかな目元も今は僅かに見開き揺れている。
アリババとて別に望を困らせたいわけでは無かったが、彼女の普段見せない動揺に頬も緩むというものだった。いいなぁ、女の子って可愛い。(この時、趣味を共にする銀髪の彼女のことは脳内から排除されていた)
「し、静雄さんと2人で食べるんです!」
ぎゅうぎゅうと袋を握る手には更に力が入っていたが、やがて決心を固めたのか望は一息にそう言い切った。
恥ずかしさからか目を瞑って告げた彼女にアリババは思わず抱きつく。線の細い望の肩が小さく揺れたのが擽ったくてアリババは更に抱きしめた。
2人して去年は似たような煩いに悩んだり浮かれたりしていたのだ。望のそういった感情に、アリババにも情が入り、何だか自分の事のように感じるのだった。
寄せていた頬を望のそれから離れ、名残惜しながらもアリババは望を解放した。
「で?2人は?」
後ろからアリババと望を暖かく見守っていた2人にアリババは声を掛けた。流れ的にやがて自分たちにも話が振られるのは予測していたのか、夏目はほんのりと赤らんだ顔で「今日はお泊りで、明日一緒に買い物に行くんです」と伝えた。お泊りの一言に思わずアリババはごくりと息を飲み込んだ。いや、それもすごい魅力的だけれど夏目も物凄い可愛い。色素の薄い髪はふわりとして毛が細く、白磁のような肌に程よく乗っている朱や、人形のように華奢な体つきはアリババの憧れだ。傍目から見てもジャーファルは夏目をとても大切に想っている姿が見受けられるが、夏目相手ならそれもそうだろうと思う。「ジャーファルさんが選んでくれる物が好き」と公言してしまう夏目にしかし、アリババは決心していた。あとで望と湿布を持っていこうと。
「Nさんは?」
アリババが夏目に対する予定を組んでいる間にも、望はNに聞いていた。癖なのか、こてんと首を傾げれば、黒い艶やかな髪が背中に揺れた。
「私?私はそうだな、久しぶりに要くんをさそ....」
「ストォォォォォップ!!!!!!!!!!!!!!!! N、ストップ!!!!!!!!シャラップ!!!!!!!!!!!!!!!!」
ぎゃあああ!と叫びながらアリババは急いでNの口を抑えた。これでも我慢したのだ。夏目みたいに「買い物に行くんです」とか続くかもしれないと期待してはいたのだ。いや、もしかしたらそう続いた可能性も有ったかもしれないが、本能が叫んでいた。最後まで言わせちゃいけないと。
彼女にしては珍しくオブラートに包もうとはしていたが、残念ながら大凡の予想はつくというものだ。普段がそうなので。
「だって要くん真面目だからテスト期間中は邪魔しちゃいけないって思ったけど、もう終わったしもういいかなって」
「聞いてない!!!!!!!!!!!!!!!!」
なんか生々しいから止めて!!!!!!!!
ほら、夏目だって顔真っ赤にしてるし!
誘うってやっぱり買い物じゃなかったか!そっちか!!!!!!!!
Nはテストでも上位の点を取るほど頭はいいし、ふんわりとした雰囲気の理系女子なのだが時折会話がぶっとんだ方向に飛ぶ。そして何故か発言がストレートすぎる。オブラートに包んで欲しいことに限ってまっすぐに発言してくる。だからアリババはいつも構えてしまうのだ。何故だろう、女子同士の照れたり何だりしながらの惚気けが一気にそんな雰囲気ではなくなった気がする。
衒いとか恥じらいからではなく、単純に楽しみだと頬を染めるNにアリババはテストが終った時以上に脱力を覚えるのだった。