終業の鐘がなると、それまで微睡んでいた教室の中の空気が一気に活動的になった。
本日最後の授業を終えて後は帰りのホームルームのみとなったからだ。ようやく一日が終わった、その解放感が生徒たちを動かしているのだろう。
燐ももちろんその内の一人で、今日もクラスの男子たちや他のクラスの同志たちの話を聞いて非常に充実した一日を送れたと自負している。
特に授業中にアリババからラインで送られてきた銀時と夜の喧嘩ーーーまるで、今まさにキスをしてしまいそうな距離で顔を合わせている写真には、銀子と黒子が即反応を返していた。
『アリババ君gj』
『今からそっちのクラス突撃していい?????いいよね?????』
思い返すだけで、ニヤニヤが隠せない。
慌ててにやける口元に手を当てるが、あんな写真を見てにやけない腐男子がいるだろうか?いや、いないだろう。
普段は雪男と登下校を共にしているが、今日は田沼と図書室で勉強をするとかで先に帰っててほしいと言われている。
もちろんこの情報も銀子、黒子、アリババとは共有済みで、図書委員の黒子がスパイをしてくると張り切っていた。
ひとまず、アリババと銀子を誘って、近所の安さがウリのファミレスにでも行こうかと鞄を手にした時だった。
「奥村っち、何ニヤけてたんすか〜?」
「き、黄瀬…」
まずいのに見つかった、と燐は内心で毒づいた。
かくいう黄瀬もニヤけているが、これは燐が何を考えていたのかを聞き出そうとしているのだろう。
自分が腐男子だとバレたら一体どんな仕打ちが待っているのだろうかーーー考えたくもない。しかし黄瀬はしつこいタイプだし、現に何でもないと言って追い払おうとしても、教えて下さいっすよ!と食い下がってくる。

誰かこのホモデルから俺を解放してくれ!!

「あの、黄瀬君。今よろしいですか?」
燐の祈りが通じたのか、その時の声はまさに天からの救いの声にも聞こえた。
振り替えればそこには他のクラスの生徒、望が立っていた。
雪のように白い肌に黒曜の髪は黒く、すらりと伸びた手足は中性的な印象を与える。つり目がちの青鈍色の瞳は、どこか物憂げに見えた。
「あ、お取り込み中でしたか?」
「望っちじゃないっすか!どうしたんすか?」
薄く色づいた唇が動き、時たま赤い舌が見えると、燐は訳もなく固唾を飲み込んだ。
綺麗なお姉さんーーーじゃなくて、綺麗なお兄さん代表の彼が、一体黄瀬に何の用があるのだろう?妄想するだけで口許が緩みそうになるのを必死に堪えた。
「いえ、ちょっと。一緒に美術室まで来ていただけませんか?」
「!?」
燐は目を見開いた。
これは一体どういうことだ?望が黄瀬と美術室に?美術室ってあれだろ、普段は人気がないからってよく告白とかの呼び出しに使うーーー
気がついた時には、既に二人の姿はなかった。しばし呆然としていた燐だが、まずはありのままに起こったこと全てを例の三人に知らせるべきだ。
急いでスマホを取り出すと、丁度ラインの通知があった。
『やばいやばいまじやばい。どれくらいやばいかっていうとまじやばすぎるくらいやばい』
まったく意味がわからなかった。
『銀子さん落ち着いてください、まずはゆっくり深呼吸して推しカプが膝枕してる姿を思い浮かべて下さい』
『田夏が…膝枕…!?やべえ超たぎる!!!!!!!』
それはまったく逆効果じゃないのか?
と思ったがたぎる事には変わりない。
『どうしたんだよ、早く話せよ!』
『あ、あぁ…』
『wktk』
『はよ!はよ!!』
『今な、燐とアリババ誘ってサイゼでも行こうかと思ってさ、燐の教室まで来たんだよ』
丁度燐も二人を誘おうと思ってたところだ。黒子の調査報告をリアルタイムで聞きながら、語り合わないかという誘いをしに来たらしい。
『そしたら望とホモデルが一緒に教室から出てきてしばらく歩いたとこで望がピンク色の封筒大事そうに取り出して大事そうにホモデルに渡して「後で読んでください」って言っててちょっともう訳分かんない』
『訳がわからないよ!』
『ウオアアアアアアアア黄瀬君gj!!!!!!!君は!!やればできる子なんですよ!!!!!!!!!!!!』
『えっ!?!?!?あいつら美術室に行くって言ってたぞ!?どういうことなの?????』
『!?』
『!?』
『!?』
四人に電流が走った。
つまりこれは望からの大胆かつ王道を貫いたアプローチなのか?夜望派の燐だが黄望という新たな可能性を見いだした瞬間、全く別の世界がそこには広がっていた。
『黄望ktkr』
『次の新刊これでいくは』
『奥村くん、やりましたね』
『とりあえずサイゼで話し合おうぜ。ここには敵が多すぎる』
それから燐は銀子とアリババと合流し、先程の一連の流れについて興奮しながら語りつつ、ファミレスへと向かった。


「黄瀬君、これ」
「ん?なんすか、これ」
「恋文…ラブレターです。クラスの女子から預かってきたんですよ。 後で読んでください」
「ふーん…美術室の子と同じっすか?」
「いいえ、違いますよ」
「みんないい加減諦めてくれないっすかね」
「黄瀬君が彼女をつくらない限り無理だと思いますよ。押しの強い子はそれでも言い寄って来ると思いますけれど」
「同じじゃないっすか!」
「ええ、結果は変わりません。ですので、諦めましょう」
「望っちが女の子だったらワンチャンあったのに……」
「残念でしたねぇ」