太陽の光を集めたような髪、琥珀を埋め込んだかのような瞳。目鼻立ちのはっきりとした顔立ち。一般的に言えば、派手目な方だろう。好きか嫌いかで言えば、嫌いではない。しかし、彼の印象を一言で表すならば「黒子っち」である。尤も、彼と黒子くんは似ても似つかない。
わんわんおだとか、デルモだとか、彼を表す言葉は他にもあるにはあるのだが、望にとってはそれだった。

「くぅぅぅrrrrrrこっちィィ!!!!!!!!」

今日も今日とて、登校中に彼は黒子くんを見つけては抱きつかんと駆け出していた。(そうすると何故だか過剰反応する人達がいる)

「ホm....黄瀬くん!ハウス!!!!!!!!」
「帰れってことっスか?!」

黄瀬くんに気づいて振り返った黒子くんが、表情には解りづらくもやや焦った様子で言う。完全に犬扱いだ。
赤司くんに聞けば、彼らは前々からあのような付き合いなのだと言う。仲が良いんだなぁとぼんやりと思った。
そう、関わりでもしない限り、彼との接点などないだろうとも思っていた。


ある秋晴れの広がる日のことだった。望、夏目、田沼、Nと中庭で昼食を採っていたところに黄瀬はふらりと現れた。ここには黒子くんも居ないのに、と思っていると黄瀬は夏目の傍により、そして、

「夏目っちの弁当、いつも美味しそうっスね 」

そう言いながら黄瀬は夏目の弁当から卵焼きを一つ食べた。良いも悪いも言う暇もない程、鮮やかに、手際よく。
ぽかんとする夏目と、僅かに眉を顰める田沼は可愛いと言うべきか愛しいと言うべきか、望は少し迷うところだった。あぁ、そうではなくて、今は。

「黄瀬くん、お昼は?」
「さっき食べたッスよ」

卵焼きを咀嚼しながら黄瀬が答える。「うわー、美味いっすね、この卵焼き」と顔を輝かせるので、望は頬に熱が集まった気がした。

「望さんが作ってくれてるんです」

夏目が律儀に黄瀬に教える。黄瀬は暫く間を置いて驚いたように「えっ」と声を上げた。何をそんなに驚くことがあっただろうかと望とNは首を傾げた。

「望っち、臨也サンのも作ってたッスよね?自分の分はともかくとして、そんなに作ってるんスか?」
「えぇ、まぁ、趣味のようなものですし」

臨也は毎日飽きもせずに静雄に弁当を自慢してるので覚えていたらしいが、しかしそれ以上に作ってるとは思わなかったのか黄瀬は瞠目した。
何だか素の表情を見たように思えるのは気のせいだろうか。あぁ、そんな顔もするのかと望は思った。(そりゃあ、まだ高校生だし彼は達観してるようにも思えないのだが、そう思わせるのは彼の職業のせいだろうか)

「じゃ、じゃあ、」

僅かに上ずったような声で黄瀬が言う。夏目が緊張したような様子で何度か田沼を見た。

「お、俺にも作ってほし――」
「駄犬はそこら辺の餌でも食べてなよ、なぁ涼太?」

黄瀬が最後まで言い終わる前に鋏が飛んで来たかと思えば、それは望たちが弁当を広げていた近くの大木に突き刺さった。齢を何百年にもなるという、この学校のシンボルとも呼べる木だ。デコボコとした木肌は決して軟なものではない。
誰がそんなことを、などは愚問だろう。
黄瀬は首をギギギとブリキ人形よろしくその人物の方へ向けた。

「あ、赤司っち....」

見間違うことなどあるわけがない。そこには、生徒ながらにしてこの学校の権力者である赤司征十郎がいた。隣には紫原敦を付き従えている。
色の違う両目の瞳孔が開いてるように見えるのは気のせいだと思いたい。

「お前と同じモデル業の夜も弁当を持ってきているようなのに、お前は他力本願かい?」

お前にモデル業の何が分かる、など言えない。言える筈も無い。言ったら最後、ズガタカオヤコロだ。
大体、彼はチートなのだ。仮に自分と同じ職業をしていたとして、作ろうと思えば弁当だって毎日作って持ってくるだろう。赤司さまマジ赤司さま。

「あ、いや、黄瀬くんの弁当くらい作りますよ。夏目くんの弁当からおかず取られるのも嫌ですし」
「えっ」

もはや絶望さえも覚えていた黄瀬に鶴の一声をあげたのは、望本人だった。
色白い肌に、艶のある黒髪。品のある顔立ち。何かにつけてややネガティブ思考だが、謙虚な性格と丁寧な物腰はじわじわと黄瀬の心を占めていった。気づいたら気になって仕方なくて(なんせ敵が多いし)、幾ら周りからわんわんお()と薄ら笑いを浮かべたように呼ばれようと尻尾丸めて眺めてるなんて後免だった。だから、弁当作って欲しいなんてアプローチを掛けてみれば、最初から鋏の鉄槌が下されてもはや涙目だったのだ。
そんな所に、望の助け舟など、鶴の一声どころか天の恵みにも等しい。神様ってほんとにいたんだね!

「のぞ....」
「いいのかい?彼らのは君の趣味の範囲でも、黄瀬のまで無理に作る必要はないぞ?」
「大丈夫ですよ、趣味の範囲です。丁度犬を飼ってみたいところでしたしね」

嬉しさに涙さえも浮かべて抱きつきそうになったのを抑えたのは赤司の声だった。望はそれにやんわりと笑みを浮かべて答える。弁当作ってもらえる筈なのに、少し惨めに泣きそうになるのは何故だろうか。

「そういう訳で、黄瀬くん。明日からお弁当を作って参りますので、好きなメーカーのドッグフードなどあったら教えて下さいね」
「明日からって、え?ドッグフード????」

あれ?俺人間っスよ???あれ???
黄色いわんこの涙腺はもう限界だった。それを尻目に田沼は夏目の耳に顔を寄せた。

「なぁ、望さんの耳赤いのって寒さのせいだけじゃないよな?」
「あぁ、あれはきっと」


照れている。