「カシム、どうしよう....」
「........」
アリババのやや垂れ目がちな目に、眉まで八の字を描かれたらそれはもう泣きそうな面持ちにしか見えない。
見えないのだが、カシムは嫌な予感を覚えた。そしてそれは大抵当たるのが定石というものだ。悲しいことに。
カシムはひとつため息をつき、弱音を吐いてきた目の前の幼なじみに向き合った。
ちなみに今は2限を終えたばかりの中休みだ。
「奥村兄弟やべぇぇ....何あいつら、ほんとに兄弟かってレベルで仲良いんだけど?!どうしよう!カシムはどっちが受けでどっちが攻めだと思う?!」
「お前の頭がどうしようだろ」
なんの因果か、幼い頃より共に過ごす時間が多く、進学した高校まで同じだったアリババは高校に入って早々クラスメートたちでそんな妄想を繰り広げていた。
この前までジャーファル厨だったのに、いつの間にかアリババの範囲は広がっていたらしい。因みにカシムには奥村兄弟はただの双子にしか見えない。言われてみれば仲いいなとは思うけれど、血の繋がった兄弟で攻めとか受けとかねぇよと思う。
「そういえば、この前弟の方と話したんだけど、お前と声似ててさぁ....」
「おい、止めろよ。その腐った妄想に俺を入れんの止めろよ」
ふざけんな俺はノンケだ。
そんなカシムの主張とは裏腹に、アリババは「まだ最後まで言ってないだろ?!」と憤慨してみせたが、カシムとしては最後まで聞きたくないのが心情だ。
まさかアリババがフダンシとやらになるとは思わなかったが、長年一緒に過ごしてきたのだ。何を考えてるかくらい分かる。例えそれが残念な内容でも。
アリババがフダンシに目覚めたのは、先日委員会でクロコとやらと一緒になった時らしい。今しがた話題に上がった奥村の兄のほうや、学年で一位、二位を争う美人とまで言われる坂田銀子もその類だったようで、出来ればそんな情報知りたくなかったとカシムは思う。
シンドバッドの冒険を愛読するアリババが、その中に出てくるシンドバッドとジャーファルに熱かったのも、固く結ばれた絆等に胸を打たれたという理由だけではなく、恋愛的な部分も勝手に深読みしていたからだそうだ。普通に読めよ、普通に。
まぁ、そんな感情が世間一般的ではないと正しく理解はしていたようで、表立って騒がないのは唯一の救いといえようか。
あんなんでも彼を慕うアラジンやモルジアナにそんなことを打ち明けることもなく、(出来ることならそのまま墓場までの秘密にして欲しかったが)カミングアウトしたのはカシムにのみだったようだ。引きながらも、結局話を聞いてやってしまうのはそういうのも有るからかも知れない。
「俺、お前のこと友達だって思ってるから、お前にだけでも打ち明けておきたいんだ」なんて思いつめた顔で、しかも自出のたか滅多に自身の相談をして来ないアリババがそんな事を言ってくるのだ。聞かないわけにはいかなかったが、冷たいと言われようと聞かなければ良かったと思っても既に後の祭りである。お陰で薄い本やら、それの即売会など、知りたくない存在まで知ってしまうようにもなった。さようなら、純心だった頃の俺とアリババ。
「てか、お前と奥村弟と話し合えることあったのかよ?」
「あるよ?!お前、俺のこと何だと思ってんの?!」
ホモォな会話からどうにか趣旨をずらし、アリババをからかう。あまり弄り過ぎるとマギ様が来たり、バララーク・セイをされかねないが、単純にアリババとつるむのは楽しい。なんたって幼馴染みで友人なのだから。
ふと時間を見ればもうすぐで休み時間が終わろうとしていた。
「そうだお前、年末はいつも通りでいいんだろ?」
「おう!アラジンたちも楽しみにしてる!」
不意に思い出したのは年末の予定だ。東京を離れて過ごすのはアリババと再会してからの毎年の恒例となっている。
初めは、カシム、カシムの妹マリアム、そしてアリババの三人だったのが、今ではアラジンやモルジアナも入り賑やかさは増している。
来年はもっと増えそうだと思うのは気のせいだろうか。それはそれでいいと思う。賑やかなのは嫌いではない。
予鈴が鳴りカシムはアリババと別れる。良かった。ホモォな会話だけで終わらなかった。
そういえば、年末って大きなイベントが無かったろうか....いや、俺には関係ない。知らない、そんなこと!
つい振り返って年末大丈夫かと言いかけたが、カシムは必死に抑えた。そんなことしたら、何かが終わる気がした。
そんなカシムの肩を叩くものがあった。驚いて振り返ると、坂田銀子が居た。彼女の後ろには黒子テツヤがいる。何故か二人とも妙に神妙な顔をしている。そうしてれば絵になるのに、こいつら腐男子、腐女子な辺りが実に残念である。
「なぁ、お前らってどっちが攻めでどっちが受けなの?」
「カシムくん、年末のお泊り会実況お願いしますね!!!!!!!!」
カシムの目の前は真っ暗になった。
今日で二度もそんなこと聞かれるなんて、やっぱりアリババの表情なんかに絆されるんじゃなかったコノヤロー。
俺はあくまでノンケだから。ノーマルだから。