アリババ・サルージャという名前を聞いて、日本人と思う人は居ないだろう。その実、バックボーンこそ中東に在するバルバットの血筋だが、アリババ自身は日本で育った年月の方が遥かに長い。それこそ、自身を日本人と言ってしまいたくなるくらいには。
訳あって日本で母子家庭に育ったがその年齢にして、既に母親を亡くして久しい苦学生だ。毎日のようにバイトに明け暮れてはいるが、燐と黒子の言うところの“コミュ力の高さ“が手伝い、何処にでも友達がいるので特別苦しくはない。
それは兎も角、アリババは友達が多い分、様々な思考や趣味に触れることも多かった。
だから、そう。それを知ることになったのはアリババの交友関係から見れば、必然だったのかもしれない。
彼はコミュ症と名乗る人達とも馴染むことができたので。
というのも、 同年代の友人らに比べアリババはスキンシップの多い方であった。カシムやアラジンと普通に肩を組んだりすることも多かった。
恐らく、性質なのだろう。カシムは眉を顰めたりはするが邪険にはしなかったし、アラジンは寧ろ抱きついてきたので、アリババのそれも思春期を経ても減ることは無かった。
だから、「お前ら腐女子の良い餌になるぞwww」と、コミュ症を名乗る奴らから、からかわれることもあったのだ。
*
専門書なら経済学、ファンタジーなら冒険書をより好むアリババは、本の虫までとはいかずとも読書は好きだった。
図書室や図書館のあの静かな雰囲気も好きだったので、高校に入って初めての委員会は図書委員に立候補した。
「あ、やべぇ、今日『覇王の冒険書』の新刊発売日だった!」
「あぁ、今日でしたっけ。予約はしてないんですか?」
「いつでも出来ると思って延ばしに延ばしてた....」
同じ委員の黒子と受付代に並び仕事をしながら、不意に思い出したのは人気絶頂のファンタジー冒険譚シリーズの新刊発売だった。
ファンタジーを取り入れてはいるが、著者シンドバッドの実体験が元であり、しかもその著者はアリババの知り合いらしい。頼めばサイン入りで取り置きしてくれるだろうが、アリババは毎回本屋で第一版を買っていた。
曰く、サインなんか貰ってしまったら、他のファンに申し訳ないし、何より緊張して本に触れない、というのがアリババの主張だ。
「あー、気になる!だけど、今日バイトなんだよな....明日まだ売ってっかな....。シンドバッドさんとジャーファルさんの主従関係....ぁぁぁ」
「アリババくんはその二人が気になるんですか?」
「おう!」
表情にこそ出ないが、実は興味津々に、そして目を爛々とさせた黒子のそれに気付かずにアリババは良い返事をした。
因みにアリババがかなりのジャーファル厨であることは既に知られていたので、色々と素質はあると黒子に見られていることは、この時アリババはまだ知らなかった。
「本の中の二人も好きだけど、実際の二人もすげーカッコよくて、俺、この高校に入れて、あの二人を毎日見れて幸せなんだ!」
黒子が受付台に頭をぶつけることをかろうじて我慢していることなどアリババは知らない。
だからこそ、黒子においうちを掛ける。
「誰かがあの二人の学校生活描いてくれたら、言い値で買うのにな....さすがに公式でそれは出さないだろうしなシンドバッドさん....」
ジャーファルさんも恥ずかしがるだろうし。でも、恥ずかしがるジャーファルさん可愛い。
脳内で頬を染めるジャーファルを妄想するアリババに伸びる手があった。
それを辿り見上げた先には、いい表情をした黒子の顔があった。キリッという効果音さえ聞こえそうだった。
「僕が、描きます」
「!!」
アリババは頬に朱を走らせ、その手を取った。そして自身もキリッと効果音を立てたような表情で言う。
「言い値で買います!」