アリババがこの学園に入学してから、実に2年が過ぎた。
元々コミュ力の高いアリババは入学前から「友達ができるだろうか?」などといった不安に苛まれる事も無く、その日をひたすら楽しみにしていた。
クラスメイトとは直ぐに打ち解ける事も出来たし、後は自分の変わった趣味さえ隠し通せば問題なく学園生活を送れそうだった。
が、入学してから驚かされるような事が何度もあった。
銀子、黒子、燐との出会い―――まさか同じ趣味を持つ者達が出会えたということには驚きを隠せない。
それに同学年に「権力者」と呼ばれる生徒が2名ほどおり、現在では彼らが実権を握っているにも等しい。
学校行事がつまらないといって勝手に数々の行事を増やすし、様々な施設を増築するし、あるクラスは教室のドアを自動ドアにしてまでみせた。
更には顔を合わせるたびナイフを投げ、それに設備として取り付けられている自販機やどこから持ってきた?といいたくなる標識で応戦する生徒もいるし、何故か高校生なのに法曹界では名の知れた弁護士だっているし、この町を影で支え守っている由緒正しい血筋の陰陽師もいるし。
それでも慣れてしまえばどうどいうこともなかった。話してみればみんな普通の生徒達だからだ。
そんなわけで、入学してから1年経つ頃には学園生活にすっかりと慣れてしまった。
そのアリババが一番驚いた事といえば、クラス替えの時だったかもしれない。
「夜・・・・・・!?」
夜、という名前が同じクラスに連なっている。アリババは自分の頬を抓り、燐に頼んで叩いてもらい、再度確認した。
そこには変わらず夜の名前が記してある。
アリババは泣いて喜んだ。咽び泣いた。そしてこのクラス割にしてくれた権力者達に感謝した。
隣にいる燐がどうしていいのか分からずにいたが、アリババは思いのままに叫んだ。
「I thank God!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
予約していたBLCDを取りに立ち寄った書店で、アリババはとあるファッション雑誌を手に取った。
特集されているのは主に個性派のストリートファッションや最新のヘアスタイルなどで、アリババはこの雑誌をよく好んで読んでいた。
しかし今回はそれだけではない。その表紙を飾る人がアリババを導いたのだ。
「はぁ・・・やっぱ夜はかっこいいよなー」
今年から同じクラスになった夜は黄瀬と同じで、学生であるにも関わらずモデルをしていた。
アリババが今最も憧れ、そしてファッションの参考にしているのが夜だった。
制服の着こなし方や休日の服装、ジャケットの着まわし術などなど、参考にしたくなるものばっかり載っている。
これもついでに買おうと雑誌コーナーを一度は立ち去ったが、彼はまたすぐにそこへと戻ってきた。
アリババが手にした雑誌の右上に、同じくメンズファッション誌が並べてある。
それはどちらかというと少し大人っぽい、いわゆる「キレイめカジュアル」の雑誌だった。その、表紙。
「えっこれも夜・・・!?」
表紙を飾るのは見間違える事などない、夜だった。
珍しいなと思い数ページ捲ってみる。シンプルかつスタイリッシュな服装は元々大人びていた夜を更に引きたて、かっこよく見えた。
「・・・・・・」
アリババは徐に財布を取り出した。CDの分と元々買う予定だった雑誌、そしてこの雑誌。
「・・・いける、ギリギリいける!」
「え?あれ買ったんだ」
翌日、アリババは高ぶる感情を抑えようとしながら結局抑えきれず、興奮したまま夜に雑誌の話をした。
その様子を黒子がミスディレを発揮してカメラに収めてることは知らない。何せ興奮しているのだから。
「夜ってさ、何着ても似合うよな!」
「ありがとな。ああいうのって手が出しにくかったんだけど、今回やってみてよかったと思うよ」
よくよく見ると、夜の制服のワイシャツは学校指定のものではなく、襟の部分に一本の黒いラインが入っている。
例の雑誌で着用していたワイシャツだ、とアリババは直ぐに気がついた。
「あ、そのシャツ・・・」
「そうそう、気に入ったから買ったんだ。これなら学校に着てきても問題ないし・・・うちの学校特に規定とかないし」
「すっげえ・・・夜って服どんくらい持ってんの?」
「どんくらい?うーん・・・あ、じゃあ今度ウチ来る?」
「えっ」
「えっ」
アリババは思わず固まった。今何て?ウチにこないかって?
「あ、あ、ああああああああくぁwせdrftgyふじこlp;@:「」」
「!?お、おい大丈夫か!?」
「あっはい大丈夫です喜んで!!!!!!!!!!!!!!!!I thank God!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そうして夜の家へと行くことになったアリババだが、彼のワンルームマンションに通されると思わず声を上げた。
まず、靴の数が多い。スニーカーからブーツまで一通りは揃っているようだ。
クローゼットの中は雑誌で着ていた服や普段着が丁寧にしまいこまれている。思っていたより服の数は多くないが、夜は着回しが上手い事で有名だったことを思い出す。
以外だった事は、アリババの好きなアーティストのCDが数多くあった事だった。
「夜もこの曲聴くんだ!俺、インディーズのときの持ってるけど貸そうか?」
「いいのか!?あれ絶版でどこ探しても手に入らないんだよなー!」
「買ったときさ、たまたま最後の1枚だったらしくて!」
話は尽きない。どこのブランドの服がいいとか、他にも好きなアーティストの話とか、読んでるマンガとか。
夜は腐男子として美味しいが、アリババにとってずっと憧れでそれこそ雲の上の存在だと思っていたのでこんな他愛もない会話が嬉しくて仕方がなかった。
ふと、テレビ台の下に色とりどりの小さな小瓶がや白いボトル並んでいるのに気がついた。
「夜ってネイルとかやるんだ」
それはアリババもよく知るマニキュアのボトルだった。見たところ黒や赤などの単色が多いようだ。
「最近ハマっててさ。あ、そうだ。アリババもやるか?」
「えっ!?」
「学校にたまにして行ってるけど、何にも言われないし大丈夫だぜ」
そういうとアリババの手を取りその場に座らせる。白いボトルの中の液体をコットンに染み込ませ、それで爪を拭く。
何が似合うかな、と真剣ぼやく夜の表情に思わずドキリとした。あれ?なんで今ドキってしたんだ?
アリババが首を傾げている間に爪には薄い肌色のベースカラーが塗られていく。手を取られていることを意識してしまうと、どうにも落ち着かなかった。
「アリババって黄色以外で何色好き?」
「えっ、あ、と・・・黒?」
「黒、ね。じゃあ丁度いいかな」
「?」
夜が取り出したボトルは黄色のボトルと黒のボトル、そして透明なボトルだ。
黄色、黒、黄色・・・と交互になるように両手に塗っていく。とてもなれた手つきで、自分にはこんなに器用に塗れないだろうなあと感心した。
それから黄色が乾いたら、黒いマニキュアをボーダーになるようぶれないようにまっすぐ引いく。
「で、トップコート塗って・・・」
「おぉ・・・!夜スゲー!!」
「はい完成。あとは乾くまでもうちょっと待ってな」
すっと夜の手が離れていった。それをなんとなく名残惜しいなと思って―――
「・・・あれ?」
「どうしてアタシに言ってくれなかったの!!!!!」
「どうして僕に言ってくれなかったんですか!!!!!」
銀子と黒子が同時にテーブルを叩いた。テーブルに乗っていた飲み物がやかましい音を立てて倒れたり机から落ちたりしている。
もうこの店の備品壊すの何度目だろう、と燐は一先ずテーブルを拭きながら2人を宥めた。
びくりとアリババが肩を揺らす。それもそうだろう、おいしいホモネタがあったのにそれを教えてくれなかったのだから。
「わ、忘れてたんだよ!ごめんって!てか別にそんなホモ目的で行ったんじゃないって!」
手を合わせるアリババの指先には、黄色と黒のネイルが施されている。
昨日夜と遊んだときにやってもらったのだ、とアリババが嬉しそうに話していた。
「・・・・・・」
なんだか胸につっかえる気分になる。
燐はその感情を知らない。すごくもやもやして嫌な気分だ。
「(雪男に聞いてみようかな・・・)」
ちらりと盛り上がっている3人を傍目に、燐はひそかに溜息を付いた。